弟子のSです

武術の稽古日誌

ゆっくり動くとはどういうことか

太極拳はなぜゆっくり動くのか」という問いに答えるため「太極拳とは何か」に引き続き「ゆっくり動くとはどういうことか」について考えます。

できるだけゆっくり太極拳をしてみる。できるだけゆっくり歩いてみる。

動きが分解されて、映画のフィルムの一コマ一コマのように、パラパラ漫画の一枚一枚のように、各々の瞬間の形の連続でできていることが意識されます。速い動きでは勢いにまかせて、意識の中で端折ってしまっていた部分にまでスポットライトが当たる感じです。

職業的なものもあるのかしれませんが、自分の身体について、頭に近いパーツほど親しく感じるという傾向が私にはありました。手とは親密だけど足とは疎遠、という具合です。足首から先に至っては、遠い親戚ぐらいにしか思っていなかった。「総身に智恵が回りかね」という表現がありますが、それです。それが全身を連動させながらゆっくり動かすことで、総身に智恵が回る、神経が最果ての地までゆきとどく感覚を持つことができます。感覚が研ぎ澄まされる、眠っていた感覚が働きだす、ということでしょうか。ゆっくり動くことで、重心や力点が移動していく感じを味わうこともできます。

「速い動きでは勢いにまかせて」と先に書きましたが、ゆっくり動くとはごまかしがきかない、ということでもあります。例えば套路では、速さで曖昧にしがちなところ・・重心がうまく置けていないところ、隙のあるところなどが除かれていきます。結果、どの瞬間も安定している、どの瞬間も敵の存在を意識している、そんな套路に近づいていけるのではないでしょうか。

つまり、ゆっくり動くとは、意識されずにいたものを意識することだと思います。