夏の自由研究「師の懐はなぜ遠い」
■はじめに
組手で師の懐に入るのが非常に困難である一方、私の懐はたやすく割られる件について、この夏、対策を考えてみた。当初は「対策=作戦」というように捉えていたので考えた内容をブログに書かなかった。師に読まれたら作戦がバレるという小賢しい理由からだ。しかしこの夏の一連の稽古を通して段々わかってきたのは、この件が小手先の作戦がどうこうという問題でなく、もっとずっと本質的なものだということである。そして、稽古を通じて既に回答が与えられ、対策としての鍛錬をも同時に進めている気がする。秋風が吹き始めても自分の中ではまだ未解決事項が多く残っているが、ここで一旦区切りをつけて整理してみる。
■「懐」とは何か
相手に対して構える際、両手で舟形をつくって防御する。両手でつくるその「門」より内部のこと。つまり懐に入るとはその門を突破して、相手の手以外の部分に働きかけることができるようになること。
相手の攻めに対し、崩れないように重心をバランスするためのスペースとも言える。
■「組手」とは何か
組手の流れとは 1)構えて間合いをとる 2)手首から門を破って懐に進む 3)崩す 4)寝技 5)関節技できめる(文末*参照)。
1)を簡略化したものが下図(実際には一方の手を前に出した舟形)。赤色の部分が懐である。
つまり組手の2)と3)とは、1)の状態から「自分は崩されずに、相手を崩す」試みの繰り返しである。■考察
よい組手のためには以下の3要素に習熟することが必要と思われる。
1. 立ち方・居方(崩されないために・崩すために)
2. 自分の懐に入れない技術(崩されないために)
3. 相手の懐に入る技術(崩すために)
1. 立ち方・居方
重心が安定していること。鼠径部を緩めてサスペンションの役割をさせることで正中線を鉛直に保持し、同時にひざへの荷重を減らす。
胸を緩めて懐を大きくとり(含胸抜背)、身の内でバランスをとって姿勢自体の保持力で立つ。
姿勢の崩れに敏感であること(崩れ始めを感知して立ち方を反射的に修正する)。
2. 自分の懐に入れない技術
破りにくい門(左)と、破られやすい門(右)とを比較すると
破りにくい門は、弧を描いた腕が上腕と前腕を逆方向に張った形、いわゆる「掤(ポン)」で固定化されている。右はひじから折れて潰されやすい。腕が固定化されていないこと・攻めに対し保持力のある正しい姿勢ができていないことが原因と思われる。
また相手との接触点を1点でなく2点とる(=面でフィットさせる)ことで門は強化される。
3. 相手の懐に入る技術
接触点から、または目視で相手の隙(気の抜けているところ、崩れているところ)を見つけ、そこに仕掛ける。鼻先・手の先・足先は同方向を向け(三尖相照)力を自分の正中線上に集中させる。
力ずくでなく相手を動かす方法があること。例えば後退と前進を一挙動でやる、弧を描く力の流れを利用する(按(アン))、虚実をつくる、相手とつながる・同調するなど。
すなわち、これらの要素に圧倒的に優れているのが師であって、真逆が現在の私ということになろう。具体的な問題点としては、
・正しい立ち方・居方ができていない=正中線を乱されやすい
・腕が固定化できていない
・接触点のタッチがうまくない
・自分と相手の状態を把握する感受性に欠ける
・頭で考えて動いているので挙動が遅れる、など。
■おわりに
7月以降、立ち方・居方に始まり、接触点から読み取って相手と同調しジャックする、姿勢の構造そのもので力を出し釣り合いをとる、といった非常に難しい稽古が続いているけれども、それらの出来不出来がこの件の解決を左右することはよくわかった。
今回の考察で至らなかった事項がいくつかある。以下。
・太極拳の重要性は理解できたが、それを補完するという柔術の働きが掴めていない。
・(*)白桃会の実際の組手では、2)の前にアプローチとして打撃(蹴り)が入ることが多い。実は切実に対処に困っているのは、師が自分の懐をがっちり守った状態で繰り出してくるこの蹴りであって、それで懐に入るどころではない(門を破る以前に、門まで辿り着けない)のが現状。打撃への対処がこの考察ではまったく不十分なので、夏は終わってしまったが今後も考え続ける。