弟子のSです

武術の稽古日誌

墓石が見えない

用事をすませた夕方に父の墓参。母76歳を連れて。私はものすごく気が進まなかったが母の意志が固く、懐中電灯を頼りに暗くなった道を登る。父の墓は埼玉県飯能市の小高い丘のてっぺんにあり、裏には山を抱え、夜になると熊や猪が出るという。昼間でも、ちょっと目を離した隙にお供えの食物を小動物に持っていかれてしまうのだ。明らかに人間でないものが食べた形跡のある栗とかが落ちている。

そんな小サファリパークな場所に、夜、食物を携えて静かにたたずむのは熊に襲ってくれと言っているようなものじゃないかと思うんだけど、母は臆せず懐中電灯を掲げてよろよろずんずんと未舗装の坂を進むのだった。私は水桶とお花とお米とお供えと母の荷物と自分の荷物を持って後をついていった。

私「お母さん。熊出たらお母さんがね、よろしくね。私まだ仕残したことがあるから」

母「いいよ」

捨て身のコメントにほだされて、母を盾にするのは最終手段にした。柄杓を握る手に力が入った。桶も使える。私「護身術だ」。母「そうだそうだ、こういう時に使わなくちゃ」

機械のような素早さで供えるものを供え、かける水をかけ、拝むものを拝むが、母は全く(全く!)急がない。「お父さんみんなを守っててねー」。早く帰れって言ってるよ・・。

家路についたらついたで、軍師官兵衛に間に合うか、とか言ってる。ガソリン代だと5000円くれた。「お墓参りは気持ちいいねえ」。