弟子のSです

武術の稽古日誌

システマ見聞録2

ステマ2回目。直前までバイトだったため時間前におにぎりを口に押し込んでいると生徒の方が「お仕事帰りですか?」と笑顔で声をかけてくださった。「もぐもぐ(はい)」。教室は穏やかで和やかな雰囲気。システマTシャツに身を包んだ方が多く、愛着が伝わってくる。

今日のイントロは「腰痛対策」。痛むのは背中側でも、腹ばいでなく仰向けで、みぞおちや鼠径部周辺をマッサージする。まずパートナーに触れ、硬いところ・痛がるところをほぐしていく。凝りを感じるところを直接押すのはその時は気持ちいいけど根本の解決にはならないとのこと。緊張の中心(硬くなって押すと痛みを感じる)は別にあるので、そこを探し出して緩める。

北川先生が揃えた指先をぐいっと突っ込むと、皆フッフッフッフッと蒸気機関車のように息を逃して耐えている。相当痛いようだ。緊張があまり酷いときは掌をただ当てるだけでもよい。そうやって初めは面で、徐々に線・点で、といった具合に刺激を強めていく。

要領に慣れたらみぞおちや鼠径部をはなれ、大腿部やひざ、目などをほぐす。筋肉のほんとうに緊張した部分は奥にあり、ふだんは隠れているので、そこにアプローチできるよう工夫する。ひざならお皿を少しずらす、目なら上瞼をマッサージするのに下方を見ながら行うなど。

「思い出したくないのに繰り返す映像」などは目の筋肉を、「勝手に繰り返すメロディ」などは耳の筋肉をそれぞれ緩めると消えるそうだ。「身体から脳に働きかける」。人身事故の記憶がいまだ嫌な感じに蘇る私は、早速目の奥の筋肉をモミモミしてみるのだった。

その後呼吸法。胴に圧を加えると息が自然に吐かれることを確認する(他動的な呼吸)。「呼吸が動作を生むように、動作も呼吸を生む」。応用して、打撃を受けた時に息を抜くこと。つまり自然な呼吸に任せること。

教室では先生が生徒を巡回して実際に触れてやってみせることは比較的少ない。口で説明して「やってみて下さい」。あとは生徒それぞれが自分で自分の(あるいはパートナーの)体や動きをああだこうだと観察する。ほんとうに研究熱心な人たちだし仲が良い。練習後は車座になって感想や質問を出し合う。

私の質問は「自分は腰痛でなく肩こりが酷いんですが、どうしたらいいですか」。「目の緊張をほぐすことですね」と北川先生は仰った。目はとくに他の部位に影響大のようだ。

「くっきりと明確に、全体的に、並列にものを見る」ことを課題とする私には、今回はやはり「目の筋肉を緩める」というアイデアが参考になった。視界に「あれは見る・これは見ない」というムラがあることは、目の緊張と無関係でない気がする。視線が頑なというか・・。

速読トレーニングで視野内の複数の情報を認識する、あるいは全体と部分を同時に認識する練習などをしていると、だんだんと目が「半眼」になってくるのがわかる。これも体が自然に目の筋肉を緊張させないようにしているのだと思う。緩めることで見え、緊張することでぼやけるなんて不思議な気がするが、脳の優先順位と身体の優先順位は一致しないということだろう。

しかし、前回の記事に書いたような、私が「ぼんやり」だという師の指摘に始まり、問題意識を持っていると、見るもの聞くもの、あれこれの「点」が共時的につながるのは驚くほどだ。

身体には固有の尊厳があると私は考えている。そして、身体の発信する微弱なメッセージを聴き取ることは私たちの生存戦略上死活的に重要であるとも信じている。(内田樹