弟子のSです

武術の稽古日誌

短棒/ヌンチャクを使った稽古

このたび師より、人に分かるように説明できないことは自分でも分かっていないのだということで、現在私がおもに取り組んでいるところの短棒およびヌンチャクの稽古の解説をせよという課題が与えられた。二種の稽古の意義がひとりよがりにならずに読者に伝わるよう紹介を試みたいと思う。理解していただくのはもとより、読み終わって面白そうだなと感じていただければ幸甚である。

1. はじめに

白桃会の武術の根幹となる体の使い方に、「站樁」と「でんでん太鼓のような動き」がある。その二つから説明しよう。

站樁:通常の立ち方では人は背筋(胴体)がしゃんとして腕がぶらぶらしているが、白桃会の站樁ではそれを逆にする。つまり手腕を曲刀やアーチ状にロックして(=「掤(ぽん)」を張って)胴体の方を緩める。吊革や鉄棒にぶら下がって体はだらんとした状態を想定するとよいかと思う。張った手腕を動かすと、緩んだ体幹が自然にバランスをとろうとして連動する。左右の手を共に内旋あるいは外旋させたり、片方は内旋させ片方は外旋させたり、ひじから横に張り出したり、環状の腕全体を回したりと、張った両手腕をいろいろに動かすことでそれに応じたバランス操作が行われる。


站椿功と酔拳

でんでん太鼓のような動き:太極拳では「スワイショウ」に、沖縄空手では「ムチミ」にその要素が見られるが、手を動かすのに手先自体でなく、胴体のうねり・しなりや回転を手先に伝えるように動かす。一例として、裏拳でヒットする瞬間に腰を逆方向に切る動きがあげられる。連動して拳はヒットとほぼ同時に逆方向に引かれるが、手先だけの挙動よりずっと速い。
体幹から末端へ伝えるこの動きを足に応用すると、洗濯物の端をつまんでパン!とシワ伸ばしするような、腰(鼠径部)からの蹴りになる。これも足だけの挙動より速い。
これらの動きのためには末端を緩めて弾力を持たせておくことが必須である。速いだけでなく、こうすると突きや蹴りにおいて衝撃の反作用が起きない。

「ロックしているフレームと緩めて自由にしているフレームの区分けを意識して動く」点で、上記の二つは対照をなしている。この体の使い方をふまえた上で、短棒とヌンチャク、それぞれの稽古の解説に進んでいこう。

2. 短棒

白桃会の站樁はロックしているフレーム(手)と緩めているフレーム(胴体)を区分け、ロックした末端をいろいろに動かすことで体が自然にするバランス操作で動くと書いた。站樁のフレーム、両手の円相を保持したまま、相手の突きを受けて打ち返したり、単推手や投げへの応用もできる。

短棒を使った稽古では、この站樁のフレームで手に棒を吊り下げて持ち、その重みを意識する。体は棒の重みで下げた手の方向に重心を移動させていく。体内でするこのバランス操作の利点は、たとえば、床を蹴るなどの予備動作なしにぬるりと攻撃から身をかわせることだ。重心移動に突きの動作をつければ攻撃に転じられる。

伸ばした手の先の棒の重みの意識に慣れたら、棒なしで、相手の突きを下方向(鉛直方向)に受けて前のめりに崩す稽古にすすむ。相手と自分の間にあるアリジゴクの巣穴に手を落としていくようなイメージ。足の重心2点と棒の重心との計3点でバランスしているものの1点に集中して重みをかけていくように意識する。三脚の足1本を取り払うと、外した足の方向に崩れていく理屈だ。3点のいずれかに続けて重心移動することで突きや投げに展開してゆける。
見えないもう一つの重心を想定し、それにあえて寄りかかる・外すといったバランス操作によって動くのは酔拳八卦掌蟷螂拳などにみられる要素だが、反発や反作用の力を使った動きでないため、相手が予測して抵抗するきっかけをつかみにくい。

短棒を横にして両端を持ってもらい、重心移動によって棒を環状に上げ下げする稽古もする。その棒を相手の頭上に運んで相手を反らせたり、棒ごと相手をこちらに引き寄せたりして投げにも展開していく。中国武術に加えて合気柔術の要素もある稽古だ。


短棒を使った練習

3. ヌンチャク

ヌンチャクは一家にひとつあるような品物ではないが、コンビニ袋に入ったペットボトル等でも代用できるという。つまり重みのある筒体から紐が出ている形状の武器であり、その特徴は以下のようになる。
・筒体が二つに分かれていることでヒットした衝撃が持ち手に伝わらない
・分かれつつもつながっていることで、剣術でいえば一刀でありながら二刀のように扱える
・攻撃速度が速い

ヌンチャクの基本となる回し方は1. に記した沖縄空手の「ムチミ」−−でんでん太鼓の要領であって、手先で回すのでなく胴体のうねりや回転を手に伝えて回すようにする。(ヌンチャクといえばブルース・リーを想起する方が多いかと思うが、胴を固定したあのパシ!パシ!と切れのいい操作は、したがって師の「うねるヌンチャク術」とはやや毛色が異なる。)

白桃会のヌンチャクはいわゆる「ムチミ」を使って回すと書いたが、攻撃や受けについても空手の型の動きがそのまま応用できるという。
ヌンチャクでの攻撃は上記したように速度が速いのが特徴である。とくに下段への攻撃に有利だ。たとえば剣術では踏み込んで斬り下ろすところ、ヌンチャクでは形状のアドバンテージからその手間が要らない。踏み込まないどころか、下がりながら(攻撃をかわしながら)打つことができる。また横・縦・前後と回転を縦横に組み合わせて相手の全体に攻撃を仕掛けてゆける。

受けについては、大別して「ヌンチャクを振り回す受け」と「振り回さない受け」がある。前者には空手の回し受け(「風車」)を応用したもの、後者には十字受けや後述する二刀流の動きを応用したものなどがある。どれも、受けた箇所をそのまま筒体で挟んで締め付けたり、中央の紐部分を使って締め上げたり引っ掛けたりと、そのまま攻撃に展開していける。

ヌンチャクの特徴に「一刀」でありながら二刀のように扱える点をあげたが、たとえばヌンチャクを肩にかけるように持ち、もう一方の端を脇で持つ持ち方は、二刀流で一本を八双(立てる)、一本を脇に構える持ち方と相似である。片方で打って受けさせ、もう片方で打つという二刀流の技法を、ヌンチャクの場合は片方をフェイントとし相手の空いたところを打つというように応用する。
また二刀流の技法であり空手の技法でもあるところの、両手が連れ添って動く「夫婦手」をヌンチャクにも応用できる。突きをV字型にしたヌンチャクで(つまり夫婦手で)横から受け、一方を離して攻撃に転ずる。付かず離れずの形状、あるときは手分けし、あるときは一丸となって事に当たる、考えてみればこれほど夫婦らしい武器もないように思われる。


ヌンチャク・攻撃と防御

4. むすび

站樁とムチミという体の使い方の公式、つまり「ロックしているフレームと自由にしているフレームを区分ける」を身に付けるための二種の稽古を解説してきたが、短棒にせよヌンチャクにせよ、それらを使う動きに中国武術沖縄空手・二刀剣術・合気柔術など、さまざまな武術の要素が含まれることがおわかりいただけただろうか。
太極拳では「虚実分明」と呼び、宮本武蔵の言葉にも「下はゆるぐとも上のうごかざるように」とある。「張る−緩める」と体内を区分けてバランスをとることで総体の強度を高める、このことは実生活上でもなにかと有用なのでお試しいただきたい。

参考記事
站椿(たんとう)の展開 http://doranekodoradora.blog123.fc2.com/blog-entry-444.html
剣と拳/気について http://doranekodoradora.blog123.fc2.com/blog-entry-436.html
講習会のおしらせ&内容解説 http://doranekodoradora.blog123.fc2.com/blog-entry-330.html