弟子のSです

武術の稽古日誌

稽古メモ

スポセンで金曜稽古のおさらい。突いてくる相手の腕に手を螺旋状に、絡みつくように接して受ける。また相手の腕に直線的に圧をかけず、合気上げ・合気下げの要領で環状に接することで動かす。技への応用と、武器を持った相手への応用。

師のお手本通りにやる。できない。見た通りにやっているつもりでも、実際は全然やれていない。私はいま自分には大変にハードルの高い接客の仕事を得て戦々恐々としているのだけれど、稽古も接客も問題は同じと言われた。「できていないのに自分のやり方で押し通そうとする」。

状況を客観視しないで自分を通そうとするのは女性性の悪い面ともいえ、稽古の後にも師と瀬尾さんに、相手に通じるように話せ、不適応、愛がない等々指摘される。研修での惨状を思うと何も言い返せず・・。師は私がカフェで働くことについて「この仕事をするのはSさんにとっていいことだ」と仰って、支離滅裂な客をのびのびと演じて接客のロールプレイの相手までしてくださった。

接客は慣れだというが、ごくまれに、何をどう努力しても慣れない人がいるんじゃないか、私がその一人なんじゃないか・・・不安が募りに募って、帰りに寄ったいつものドトールでついに店長さんに話しかけてしまった。現場ではこの人になりきろうと私が密かに観察を続けてきた彼は、突然の問いかけにも関わらず親切に答えてくださった。

Q. キャリアはどのくらいになるんですか?

A. 20年くらい。学生バイトからそのまま社員になりました。

Q. 研修用のマニュアルはありますか?

A. ないですね。全てのオペレーションをマニュアルにしたらすごく分厚くなっちゃいます。

Q. この仕事に不向きな人っているでしょうか?

A. 相手の目を見て話せない人、笑顔のない人かな・・。でなければ大概は務まると思います。

キャリア20年か・・。さすがの円熟味・・。そして、普段お客さんと何気ない会話のやりとりをしている様子からは意外なほど訥々と話されるのだった。特段おしゃべりが得意な人じゃないんだ。「うちは本社直営でなくフランチャイズなので、わりと自分の裁量で動けるんです」と仰った。私の勤めるのは直営店だから少し事情が異なることがわかった。

大概の人なら務まりますと言われても私に務まる確証はないわけで、もういっそ早く現場に立ってしまいたい。伊丹十三も、映画を撮る前の恐怖にはつかみ所がないが、いざ撮影が始まれば問題は具体的な形でしか出てこない、みたいなことをエッセイに書いていた。

それはそうと、師に「あなたは頭の容量が小さいから、娘さんのいない寂しさとか、武術にまつわる悩みを今は忘れているでしょう」と言われ、なくなりはしないけれども、確かに相当紛れていることに気づく。