弟子のSです

武術の稽古日誌

母の贈り物

太極拳をしていれば、呼吸がゆったりと整う套路の動きが癖になっている人も多いだろう。私も家でよくやるようで、娘がスマホで撮った日常風景の端っこに、私が写り込んで樓膝拗歩してたりする。

先日のことだが、茶の間の介護用ベッドに横になった母が、私の套路をまじまじと見て
「かっこいいねえ」と言った。
「これでも10年習ってるからね」と私。すると母が田舎言葉で
「そうだろうな。習ってなきゃそれだけの格好はできねえよ」。

気質や価値観の違いや、たぶん母娘の甘えからストレスの多い介護生活を送っているが、ごくたまに二人の波長が合った時、予期せず珠玉のような時間が訪れることがある。このときもそうだった。私は褒められて、たちまち小躍りする幼児の心にもどる。首にメダルをかけてもらったような気持ちがした。