弟子のSです

武術の稽古日誌

今日の読書

野口三千三(1914〜1998)という人の書いた本を読んでいる。タイトルは『原初生命体としての人間』(昭和47年刊)。東京芸大の体育教師だった方で、演劇畑ではよく知られた先生らしい。

人間の身体を液体的なものとしてとらえ、力を抜くことに主眼をおいた体操を考案されたとのことで、その考え方が私の学ぶ武術に似ているなと思って読み始めたんだけども、思いのほか文章が非凡というか斬新なのである。どうしよう、おもしろい・・。

「(ゆで卵より)生卵のほうが自主性があり、他人に支配されにくい」

「あなたは呼吸が自由にできなくなったときの苦しさを体験したことがあるか。もしなかったら、自分の鼻と口を押えて味わってみてほしい」

「本題に戻ろう。はたして、人間は猫より硬いのであろうか。それを検討するために、ここで柔らかさの本質を吟味しなければならない。・・猫の肩にさわって比較しながらいろいろうごかしてみていただきたい。そして、人間のほうが猫より柔らかいことを確認し、人間は硬いのだという固定観念を打破してほしい」

猫って、昔はふつうに傍らにいて肩とか触らせてくれたものなの?

当時の芸大生に「こんにゃく体操」と呼ばれた体操は「野口体操」の名で今もお弟子さんが大学やカルチャーセンターで教えている。全国組織化を望む声もあったが、本人は組織化・体系化されることを好まなかったという。

「世間ではこの体操のことを野口体操と呼んでいるそうですが、もし仮に野口体操というものがあったとして、それをまず最初の手がかりにして、それぞれの人が、それぞれの場所で、それぞれのやり方でこの体操を始めたら、この「野口」という固有名詞はすぐに消えるはずです。いろいろなかたち、いろいろなあり方がそこに生まれてきて、それがそのままその人その人の体操になる。そして、それがその人の生活の中に完全に密着してしまって、さあ体操するぞ、というような意識がなくなってきた時には、さらに「体操」というコトバも消えてしまう。あとに何が残るかといえば、そこには新しく生まれ変わった一人の人間がいるというわけです」(『野口体操・からだに貞(き)く』)

いいことを言う人だ