弟子のSです

武術の稽古日誌

2016-01-01から1年間の記事一覧

地獄は一定すみかぞかし

武術や、武術の師や、稽古について。詩人の伊藤比呂美さんが現代語訳した『歎異抄』第二条、抜粋。念仏を稽古と読み替える。 わたしは、ひたすら念仏してアミダ仏に救われようと 法然師のいわれたことをそのまんま信じているだけで あとはなんにもありません…

『聖の青春』

前回の記事に対し、私を心配してくださる方からいくつかの親身なご意見をいただいた。ありがとうございます。 『聖の青春』という映画を観ました。早逝した天才棋士・村山聖の物語ですが、劇中で彼が声を震わせて「勝ちたいんじゃー!!」と叫ぶシーンがあり…

元弟子のSです

ブログを始めた当初、4年後にこんなタイトルの記事を書くことになろうとは思いも寄らなかったが、前回の記事に書いた「弟子であろうとするSです」なんて認識は甘く、既に師弟関係は解消されていた。・・といっても、稽古は条件付きで継続中だが。 師のブログ…

このごろのこと

弟子とは師との契約において「山のカラスが黒かろうと、師が白と言えば白」と、おのがエゴをドブに捨てることを承服した者のことである。 それはこちらの記事にあるように、 師が命じていること=弟子が望んでいること=武術が要求していることの三位一体が…

子供空手のこと

助手として子供空手の稽古に参加させてもらうようになってから3年ほど経つだろうか。大変な思いもたくさんするけれど、子供から学ぶこと、空手から学ぶことが多く、負の感情を相殺して余りあるものがある。このところ印象に残った出来事をいくつか。 小学1年…

忘れようとしても思い出せない

集中すると周りが見えなくなる。私のそれは集中ではなく熱中と呼ぶのだという。直せと師からさんざん注意されているのだが、この怒涛の集中力に助けられた経験も今まで多くあり、いちがいに悪者扱いすることができない(人の性質とはおしなべてそういうもの…

稽古メモ

師によれば「ピザって麺類ですよね」と言い張ってきかないのが私だということだ。「いや違います」と答えても「だって小麦粉でできてるじゃないですか」と強弁する。麺類かどうかは「原材料」でなく「形」で決まるのだ、といくら教えても聞き入れない。認識…

稽古メモ

昨日の稽古で、剣術の動きを利用した力の出し方をやった。剣道の「叩く」刀使いと違い、剣術の(つまり日本刀の)刀使いは柄の方向に「スライドさせる」。稽古では自己の他者化・身体の道具化ということをよく言われるが、刀を持った腕〜肩〜背中をひとつな…

稽古メモ

朝パワーボールを回してすんなりモーター音が出ると「あら、今日はいい日だ」と思う。ダメな時はどうがんばってもダメなのに、回る時は予定調和感があって特に達成感もない。静かにぶんぶん言っているパワーボールをゆっくり転がしていると「ユナイテッド(…

稽古メモ

弱点の左足が先週から不調なせいで、何となく全体的にテンションが下がっている。自分のテンションにかかわらず構造で戦えるようになるには、どうすればいいのだろうか。 筋力やフィジカルで人に対抗できる可能性が私の場合皆無なので、内功で聴勁や化勁を鍛…

稽古メモ

内功がつづく。 師に不思議な球を渡された。パワーボールとかパワーリストとか呼ばれるトレーニング器具だ。見たことのない人のためウィキペディアから丸うつししておくと、 「野球ボールほどの大きさの球形プラスチックケースに、重量のあるボールが内蔵さ…

自殺よりは武術

20分に1人が自ら命を絶つ自殺大国、日本。衣食足りて民度も低くないのに、生きづらさを抱える人の多い国。 武術に出会う前までの私は、村上龍という作家にずいぶん勇気づけられてきた。アグレッシブな彼の著作を読むと、東の空に朝陽が昇るごとく希望が胸に…

稽古メモ

金曜稽古の帰り、前回「わからない」と書いた師のブログの記事について質問する。 私「死に捉われていると本当にやりたいことがわからなくなると書かれていますが、明日死ぬと思えばこそ本当にやりたいことがわかる、ということがあるんじゃないでしょうか」…

稽古メモ

道で殴られて「社会が悪い!」と叫びながら死んでいくよりクロスカウンターで倒した方が美意識に適う。 師はこのツイートに先行し、 道で殴られたり金を奪われそうなときに「悪いのは私ではなくそういう社会なのだから私には責任がない。だから自己防衛しま…

上野千鶴子さん3

前回の記事で引用した師のツイート: 道で殴られて「社会が悪い!」と叫びながら死んでいくよりクロスカウンターで倒した方が美意識に適う。 早い話が私もそっちのが趣味に合ってる、ということなのですが、道で殴られて「社会が悪い!」と叫びながら死んで…

上野千鶴子さん2

きっかけは夏の初め、「ケンカ」の三文字に目がとまって読んだ『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』(遙洋子)だった。時を同じくして旅行先で自称フェミニストの腕白中高年二人(どちらも護身術教室の生徒)から上野千鶴子賛を聞き、よくわからないが何か縁…

システマ見聞録3(最終回)

システマの講座3回目。今日が今期の最終日。印象に残ったものを特記。 ・スティックワーク。縦一列に並んで、棒を持った一人(暴漢役)が対向し、ウワーという叫び声とともに突っ込んでくる。列はまっ直ぐなので先頭以外の人に暴漢は見えない。見えない状態…

稽古メモ

課題のミット受け。きっかけは子供空手の時間に師がデモでされた回し蹴りを私がミットで受け損ね、前腕部に当てて、折れたかと思うほど痛い思いをしたことに始まる。少し位置がずれていれば私のひじが相手の足の甲にヒットして怪我させていたかもしれず、師…

稽古メモ

稽古のたびに新たな課題やら謎やらヒントを受け取り、それがまた自分の実生活の問題や興味と絶妙にリンクするものだから、取り組むことがいっぱい。充実してていいけど記録が追いつかない。 ここ一週間の覚え書き。 9月2日 ・占い師として近日プロデビューす…

上野千鶴子さん

「見る」ことと別にもうひとつ、最近考えていること。 先日、稽古からの帰途で師と、あらまし次のような話をした。 「人によって抵抗の多い少ないはあろうが、我々は道を裸足で歩けない。公衆の面前で踊りだしたり、裸になったりできない。赤ん坊は往来で裸…

稽古メモ

今日、発達・進化ということについて、通信技術を例にとって師から伺った話を覚え書き。 「情報をより速く伝達しよう」という試みを歴史的にざっくりひもといて、 飛脚 → 馬 → 伝書鳩 → FAX → メール としたとき、「伝書鳩」と「FAX」の間に質的な変革、別次…

システマ見聞録2

システマ2回目。直前までバイトだったため時間前におにぎりを口に押し込んでいると生徒の方が「お仕事帰りですか?」と笑顔で声をかけてくださった。「もぐもぐ(はい)」。教室は穏やかで和やかな雰囲気。システマTシャツに身を包んだ方が多く、愛着が伝わ…

稽古メモ

あちこち出かけていろんな人と話して本も読んで映画も観て、楽しく武術的にも充実した夏休み・・・と思っていたが、二週間ぶりに稽古してみたら、今まで投げられたことのない人に投げられ、師との自由推手では同じパターンで何度もやられるという、かつての…

システマ見聞録

朝日カルチャーセンター立川「ロシア武術『システマ』入門」に参加する。入門と言ってもそれ用のクラスが設けられているわけではなく、行ってみたら、レギュラークラスに初心者として加入するかたちだった。練習は月2回、生徒は10人弱。生産年齢(?)の男性…

8月3日

書きかけの記事があったけどちょっと衝撃的なことがあってそちらに囚われている。水曜日に稽古に向かう途中、乗った電車で人身事故が起き、私の車両がよりによって「救出」作業が行なわれている現場の踏切前に停車したのだ。警官や消防や鉄道の人達が懸命に…

武術的なものの考え方について

先日またもや、うーんとうならされる事を師に言われた。 数年前、師からうかがった喩え話にこういうものがある。 「地震で家が潰れて火事になりました。家の下敷きになり足が挟まれて動けません。傍らにノコギリが落ちています。火が迫ってきます。足を切り…

合気いろいろ

そりゃ月に十何回稽古に来るというのも熱心、また遠くから通うのも熱心、であるけれども私の熱心さはその熱心さと質、量ともに本質的に違う。どうしても合気を会得するのだというすさまじい執念があった。みんな考えないでただくり返しているからうまくいっ…

渡辺信之師範の演武を見て

太極拳で戦うというのは人を吹っ飛ばすことではない。傾聴と理解、情報処理能力の速度で戦うということ。 無機物である床とひとつになる、有機物(生物)である相手とひとつになる。そして力を出すというかもらうというか、自分は倒れず相手を崩す。そういう…

稽古メモと近況

武術の稽古を始めたすぐから「どうやって両手の防御を突破して懐に入るか」「相手の '門' を突破するか」という疑問をずっと、それこそ数年越しで抱いていたけれど、先日の稽古でハラリと腑に落ちたのは、「門」などというものは無い、ということだった。そ…

稽古メモ

「柔よく剛を制す」はよく知られているが、それと対をなすものとして「剛よく柔を断つ」という言葉もあるそうだ。先週の金曜日はそれを稽古した。押し合って膠着状態でいるところを一気に断ち切って相手の力の方向に崩す。 柔の動きが太極拳らしさだとすると…