弟子のSです

武術の稽古日誌

無題

自分を愛してくれる人間に無用な心配をかける奴は大バカだ・・みたいな台詞が『サルチネス』にあったかと思うが、昨日またバカの上塗りをして、師仰るところの「自分で自分の修行を片っ端から台無しにしていく」クラッシャーぶりを発揮してしまい、ほとほと自分は、生身の人間に師事する修行に向かない、最低の弟子だと思う。理由は二つ。師も私もくたくただ。

昨日、師に連絡をとり「やめます」と伝えた。理由は後で書く。師はああそうですかと仰った。「つらいので助けてください、相談に乗ってくださいならばともかく、やめます、では話し合いの余地はないですね」。そう言われて自分の本意に気づく。私は、師に自分を引き止めさせたかったのだ。やめると聞いてやさしく扱ってくれることを期待したのだ。

切った電話をかけ直して・・・師は出てくれた・・・すみません、私の本心はかくかくしかじかでした、と言うと、師は本当に怒って「あなたは何をやってるの?武術に関係ないことばかり考えている。やめると言って、あなたは私を試そうとしましたね。脅迫しようとしましたね」「はい、バカみたいです」「みたいじゃない。バカなんだ。本当にくだらない」。

稽古を始めたばかりの頃、師から次のようなことを言われた。

「修行者として武術をするならば、褒められる、認められるということはありません。右に行きそうになれば左に行け、左に行きすぎたら右に行けと言われるだけです。この先ずっとです。それでも嫌になったり、私を憎まないことができますか? ほめられたい、認められたいということをモチベーションにせずに武術を続けられますか? 武術家であろう、私の後を追おうとSさんが考えておられるなら、私もそれに準ずる高さの意欲と努力を要求します。大変でしょうが、その厳しさこそが、期待と信頼の証と受け取ってください」。

だから私は、やさしくされないことや、女扱いされないことに普段は誇りを持っている。

普段は・・というのは、時折、やさしくされたいという嵐のような感情に襲われるからだ。そのきっかけを一言でいうと、師が「自己愛が強くて自己評価が低い」と看破する私の性向が刺激された時だと思う。たとえば師が人にはやさしくし、私のことは叱る、それだけでいとも簡単に感情が揺らぐ。自分に自信がないからだ。私は、師のもとで武術を学ぶまで、妬むという感情が存在すること、それがこんなにつらいものだということを知らなかった。後述する「神」が私を守ってくれていたからだ。思えば平和な半生だった。

感情に乗っ取られると、師がご自分のブログの更新を後回しにして私の記事に叱責のコメントをくださるのが「やさしさ」だということもわからなくなる。結局私は、そのとき求めるものを求める形で与えられなければ満足しないのだ。(師はそれを女性特有の思考だと仰る。)それが抑えきれないと破壊行動に出ることになるのだが、今回のは特別いやらしかった。勝手で、何も申し開きできない。

もう一つ。

師が疲弊するのは、何度同じことを言っても私に伝わらない、いくら指示しても私がやるべきことをやらないからだという。「地獄のような繰り返し作業で、何度も我慢の限界を越えています」。

書きこまれているプログラムを初期化してニュートラルに戻し、その後に新しいプログラムを入れる・・という修行のプロセスを、これだけお互いが頑張っていてなぜうまく進めることができないのか。

それは私の頑迷さに原因があると思っていたんだけど、もう少し確信犯的であることをここに認めようと思う。認めようが認めまいが師はとっくにお気づきだったかもしれないが。

私は心の安定をずっと神とか祈りとかそういう西洋的・二元的なものから得てきながら、それを代表する宗教、つまりキリスト教に傾倒しきることができず、そんな中で師に、東洋思想の具現である武術に出会った。修証一等・同事不異・陰陽といった一元的なものの見方は新鮮で魅力的でいくらでも勉強できる。しかし足元は依然として西洋のあれやこれやにどっぷり浸かっている。そこにいるのが快適なのだ。そこから出ないで、一元性って素晴しいですねとか身につけるのは難しいですねとか言っている。素晴しいと思う気持ちに噓はない。しかし、自分のすべてを投げ出すような信頼を師に託す、と言いつつ実は一元性と二元性とのダブルスタンダードなのである。

握った手を開くことができなくて壷から手が出ないのではなく、手を開く気がない。既存のプログラムの初期化を本当には望んでいない。だから師の望むような上達が得られるはずがない。助けてくれと言っておきながら命綱をキープしているようなものだもの。

師を試そうとした。脅迫しようとした。師を騙した。

私は、最低だ。

してしまったのでも、させられたのでもなく、自ら選んでバカをやりました。

やめたくありません。どうしたらいいのかわかりません。