弟子のSです

武術の稽古日誌

単推手について

単推手は、体軸の回転と掤(ポン)にした腕とにより、本来ならば向かい合う相手との間に水平方向の円運動が延々と続くもの。 と先の記事に書きました。左右、上下、末端と根幹、このように全身がつながって一つの運動体になるのが特徴の太極拳、その稽古である単推手を以下に記す2つの側面から考えてみたいと思います。右手で行った場合の軌道を上から見てみました。 まず下半身の動きからみると、単推手は
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こんな感じの前後運動になります。●は重心が最も片足に寄るポイント。右足を前に足を開いて構える単推手では●Aは右足重心、●Bは左足重心です。また、それぞれ体軸が左回転、右回転するポイントでもあります。前後の重心移動に体軸の回転が加わることでニュアンスとして左回りの弧が描かれることになります。 上半身の動きをみると、手の軌道が次のように同じく左回りの弧を描きます。
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上の弧は自分の手が相手領域にあり、下の弧では自分の領域にあります。手の動きで見たとき、●Aでは最も相手側の領域に入り込み、●Bでは最も自分の領域に相手を引き寄せています。力を受け流し相手に返すという円環を作るために、赤色にした下の弧の部分、ここをどうすればいいのか。ここの処理が自分的には最大の課題であると思うわけです。 手が具体的にどんな様子で相手と接しているかをさらに図示しますと、
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こんな感じでしょうか。●Aまで相手に手の平を向けて進み、●Bまで自分に手の平を向けて受ける。いずれにしても●のポイントで体軸が翻るのに連動して手が翻り始めます(グレーの部分)。外旋によって脇が締まり引き寄せる動きを招き、内旋によって脇が開き腕がアーチを描いて(ポン)受けた力を返す動きになっていきます。 こうして相手の力を引き込み、受け入れ、流し、相手に返す器械のような左回りの運動が生まれるわけです。まとめますと、 ●A:前足重心で最も相手側の領域に入り込む →体軸を左回転させて後退に転ずる。手は外旋しながら相手を引き寄せ始める。(受け流す準備) ●B:後ろ足重心で最も自分の領域に相手を引き寄せる →体軸を右回転させて受け流す。手は内旋することで受けた力を相手に戻し始める。(力を返す準備) 向かい合った相手が同様に動いていれば一つの円環を共有することになり、どちらかがその円環を乱すまで運動は続いていきます。 『拳児』に「単推手は受け流す時に体重を後足にかけて、上体を右に大きく回転させる」という解説がありますが、私はそれが不得手です。順歩で体が左斜め前に向かって開いているため、●Aでの左回転のターンが自然にそうなるのに対し、右回転で受け流す●Bのターンはかなり意識して体を捻らなければなりません。左足を故障している私は後足への体重の乗せ方が甘く●Bでの姿勢が安定しないこと、それを補う術をまだ持たないことから捻りが足りず、そのために受け流しとそこから返しへの転換(=上述の赤線部分)がまずくなるようです。師仰るところの「陰・虚の働き」を身につけて、引き込む動作をよくしていきたいと思います。おわり 補足:書き終えてみて、前回の記事の疑問 どうして単推手を考えた人は拗歩(前足と逆側の手が前。拗は「ねじれる」の意)でなく順歩(前足と同じ側の手が前)で突くようにしたのかな。套路中唯一の正拳突きである進歩搬攔捶は拗歩で突くのに。それに順歩だと、弧を描いて向かってくる相手の力の方向にわざわざ体を開いて立つことになる。 そのへんの理由を考えることで単推手のコンセプトに迫れるように思う。 が全く考察されていないことに気がつきましたが、単推手のコンセプトについては師の助けを借りつつ、おいおい迫っていきたいと思います。