弟子のSです

武術の稽古日誌

システマ見聞録

朝日カルチャーセンター立川「ロシア武術『システマ』入門」に参加する。入門と言ってもそれ用のクラスが設けられているわけではなく、行ってみたら、レギュラークラスに初心者として加入するかたちだった。練習は月2回、生徒は10人弱。生産年齢(?)の男性が大半。探したが昼間のクラスがほぼ皆無なのは、そうした人々がシステマを学ぶ中心だからだろう。

ステマ創始者ミカエル・リャブコがまだ存命中(というか私とほぼ同い年)なので、日本で教えるインストラクターは創始者から直接認可を受け、今も教えを受けている人たちだ。講師の北川氏もモスクワでの研修を終えてきたばかりだという。なので今日のメニューは創始者の教える最新の内容ということだった。

・末端のエクササイズ。足の重さを意識するワークから始まり、寝転んで、足の動きに全身を連動させて足の重さだけで教室を一周する。同様のことを手でも。一周どころか数メートルしか進まず非常にきつい。いきなりきつい。

・自身の体を連動させるのに続き、相手の体の連動を利用して、両手をつかまれた状態から崩す、倒す。力づくでなく自然に動かせる方向を感知しながら。両手の次は片手で。

・壁に固定されたバーを押し下げる、押す、引く。体の重さで押さない、引かない、バーにもたれない。そしてバーに接する手以外の部分はゆるめていること。圧をかけた状態で、固くなっている体の部位を意識し、そこを柔らかくしていく。

・プッシュアップ。拳立てで3分静止、両手を付けて静止、両足を壁に押し付けて静止。

・呼吸法。吸気で体を縮こませ、呼気でリリース。その対応を半テンポずつずらし、徐々に、吐いているが縮まっている、吸っているがゆるんでいる状態に。

・最後に全員でミーティング。練習の感想や質疑応答。

体がきつくなると、皆、独特の呼吸法で苦しさを逃している。お産で陣痛の時にする「ヒッヒッフー」、あれに近い。そうして苦しさを逃しつつ自分の体と向き合っているように見える。後から北川先生に伺ったところによると、体の歪みやバランスの悪さを修正するには、あれこれ指導するより負荷をかけてしまうのが手っ取り早いとのこと。筋肉が疲弊しきったところが始まりで、そこから体が正しい方法を探し出すという。

それで皆ふうふう言いながら、ああでもないこうでもないという表情で取り組んでいるのか・・。私の頭にはおきまりの(これは何なんだ、どういうことだ)という疑問が渦巻くのだったが、「つまり〜ということですか?」なんて訊く人はいない。どの人も学び方を心得ているように見えた。

私は個々のワーク中に「〜するといいですよ」とアドバイスされると「 ‘何のために’ いいのですか?」と訊きたくなってしまう。着地点が見えないのでつかみどころがなく、モヤモヤしてカタルシスがない。練習後のミーティングで、感想を訊かれたので「それぞれのワークの向かうところがわからなくて戸惑いました」と正直なところを話す。北川先生は「自分は言葉で説明しない。それをするとその時はすっきり腑に落ちるかもしれないけれど、言葉によって狭められるものが多く、長い目で見ると効果に結びつかないから」と仰っていた。

北川先生はまた「自分は(システマをやっていて)達成感を感じたことは一度もないです」と仰った。「練習が終わって、ふう、やった〜、という意味の達成感ならあるけれど、練習で達成感を感じたらそこで止まっちゃいますから」。

初学者がたった一回の練習の印象を語ることに意味があるとも思えないけれど、講師を含めた学習者全員が「言葉にできない巨大なもの」に取り組んでいるという意識を共有しているように見えた。だから訊くべきでない事は訊かないし、言うべきでない事は言わない。インストラクターがそれをやって「お前は神にでもなったつもりなのか?」と現地でたしなめられる事もあるという。

わからないことに対する耐性。謙虚で真摯であること。つかみが無いなりに、何か大事なことを提示されているというか、反省を促されている気がした。