弟子のSです

武術の稽古日誌

今日の読書

バスに乗る用事があるのに読むものがなくて、手近にあった太宰治の文庫本を持って出る。

太宰治井伏鱒二の弟子であった。井伏鱒二選集の編者を務めていて、全巻のあとがきを書いている、その文章がいい。後年不幸な終わり方をする師弟関係だけど、ここに書かれているのは、師を慕うことの幸福そのもの。

「私はいまでも、はっきり記憶しているが、私はその短編集を読んで感慨に堪えず、その短編集を懐にいれて、故郷の野原の沼のほとりに出て、うなだれて徘徊し、その短編集の中の全部の作品を、はじめから一つ一つ、反すうしてみて、何か天の啓示のように、本当に、何だか肉体的な実感みたいに、『大丈夫だ』という確信を得たのである。もう誰が、どんなところから突いて来たって、この作家は大丈夫なのだという安心感を得て、実に私は満足であった」

「これらの作品はすべて、私自身にとっても思い出の深い作品ばかりであり、いまその目次を一つ一つ書き写していたら、世にめずらしい宝石を一つ一つ置き並べるような気持がした」